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熱射病を経験したトレーナーが解説する熱中症完全ガイドライン

7月20日

読了時間:10分

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熱中症を軽く考えないで





まずは聞いてください 〜あのまま死んでいたかも知れない〜


これは、私の実話です。


20年ほど前、

私は順天堂大学を卒業後トレーナーになり、

社会人2年目の時でした。

当時勤めていたスポーツ施設で

私が企画したランニング教室があり、

そのメンバー10名くらいで

ハーフマラソンに出場しました。


開催は3月で気温は24度くらい。

快晴でしたが前日までの雨で

湿度は高めでした。


「みなさん無理はしないように、

大会後の打ち上げを

楽しみに走りましょう!」


みたいな言葉を交わして

スタートラインに。


もちろん私も出走。


私の当日の体調はすごく良く

スタート直後、

「今日は身体が軽いな。

これはいいタイムが出そうだ。」

と思ったほどでした。


そして・・・・。



気づいた時は病院のベッドの上でした。


体中が激痛で、

鼻には酸素を供給するチューブが

つけられていました。


私は18kmくらいの地点で倒れ、

救急車で搬送されました。


もちろん意識はありません。


運ばれた時、体温は42度あったそうです。


倒れる直前、

意識がない中ガードレールにぶつかりながら

走っていたようで、

体の数箇所に傷があったそうです。


意識ない状態で運ばれて、

病院に駆け付けた父親の声で

幸い意識は取り戻しました。


一命は取り留めたものの、

私は熱射病(熱中症の中で最も重症。

後ほど解説します)

による多臓器不全と診断され、

その後2週間入院治療を受けました。


最初の数日間は

集中治療室のような病室で

面会謝絶の状況でした。


(後で聞いた話ですが)

私の意識がない時に

両親が医師に呼ばれ、

「今後、人工透析が必要になる可能性がありますので、承知しておいてください。」

みたいな事を言われたそうです。


当初、筋損傷を示すCPK値は2,000を超え、

肝機能のGPTは200を超えていました。

入院中ずっと、37℃以上の微熱が続きました。


退院する時も微熱が続き

肝機能も下がらず100近くあったため、

医師からは「できればもう少し入院を・・・」

と言われましたが、

自宅療養することを約束して退院したのです。


退院後も1週間自宅療養しましたが、

職場復帰したのは3週間後です。


職場復帰してからも疲れやすく、

入院前のトレーナー業務をこなすことはできず、

受付業務をこなすのが精一杯でした。


その後も半年間、

通院と経過観察が続きました。


たった一度の熱中症で、

たくさんの方にご心配とご迷惑を掛けました。


倒れた私自身も辛かったですが、

一緒に走ったメンバー、職場の方々、家族、大会関係者がどれだけ大変だったか・・・。


もしもあの時、あのまま死んでいたら・・・



熱射病は死に至る病気です


死亡率30%


入院していた時に医師から聞いた話ですが、

熱射病になった人の30%が死亡し、

30%の人は何らかの後遺症が残り、

無事退院できる人は30%くらい

だそうです。


みなさんにも覚えておいてほしいです。

「熱射病は死に至る病気です」


最近は毎日のように

「今日一日で熱中症の疑いのある方が○○名救急車で搬送されました。」

などとテレビで報道されています。


「私は大丈夫」などと、

熱中症を軽く考えないでください。


特に、

学校の先生方、

スポーツ指導に携わる方々には、

「熱中症は生徒や会員の命を奪う可能性がある」

ことを肝に銘じてください。


指導者の経験だけで、

「このくらいの暑さなら大丈夫」とか

「水分補給していれば良いだろう」とか

軽く考えないでください。


本当に、

本当に、

熱射病はその方の人生を奪います。


周囲にも多大な影響を与えます。



熱中症の発生数・死亡数


総務省消防庁報告データによると、

全国で6月から9月の期間に熱中症で救急搬送された方は、

2010年以降大きく増加しています。


特に暑い夏となった

2018年は92,710人、

2019年が66,869人、

2020年が64,869人

と近年多くなっています。


また、厚生労働省人口動態統計から集計されたデータによれば、

熱中症による死亡数

2010年の1,745人が最多となっています。


その後若干減少してはいるものの、

2018年、2020年も

1,500人を超えています。


2022年には、

1,477人の方が熱中症により亡くなっています。


これだけ多くの方が

熱中症で亡くなっている事実を、

どれだけの方が知っているでしょうか。


また、

学校管理下の熱中症死亡事故は

1960~2017年の58年間に195件あります。


「58年間で195件」という数字を、

あなたは少ないと思いますか?


10年にたった1回でも死亡事故が起きれば、

おそらくその学校、部活動、スポーツクラブは

活動休止を余儀なくされるでしょう。

例外なく法的責任(業務上過失)も問われます。


個人で運営しているような小規模のスポーツ教室であれば、

閉鎖せざるを得ないかもしれません。


何より、

もしもあなたの家族が熱中症で亡くなったとしたら、

「たった1件」でも、

その重みは理解できるはずです。


全国の運動指導に携わる方(運営者もふくめ)に問います。


「あなたにはその自覚と覚悟がありますか?」



熱中症の分類


熱中症の分類


(日本救急医学会熱中症分類 2015による分類)



症状

治療

臨床症状からの分類

Ⅰ度 (応急処置と見守り)

めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛,筋肉の硬直(こむら返り)、意識障害を認めない

通常は現場で対応可能→冷所での安静、体表冷却、経口的に水分とNaの補給

熱けいれん 熱失神

Ⅱ度 (医療機関へ)

頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下

医療機関での診察が必要→体温管理、安静、十分な水分とNaの補給(経口摂取が困難なときには点滴にて)

熱疲労

Ⅲ度 (入院加療)

下記の3つのうちいずれかを含む

(C)中枢神経症状 (意識障害、小脳症状、痙攣発作)、肝・腎機能障害 (入院経過観察、入院加療が必要な程度の肝または腎障害)

(D)血液凝固異常(急性期DIC診断基準(日本救急医学会)にてDICと診断)⇒Ⅲ度の中でも重症型

入院加療(場合により集中治療)が必要→体温管理(体表冷却に加え体内冷却、血管内冷却などを追加)呼吸、循環管理、DIC治療

熱射病


重症度は、Ⅲ度が最も重症となります。



熱中症予防に関する指数


WBGT


暑さ指数(WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)は、

熱中症を予防することを目的として

1954年にアメリカで提案された指標です。


暑さ指数(WBGT)は

労働環境や運動環境の指針として有効であると認められており、

ISO等で国際的に規格化されています。

(公財)日本スポーツ協会では「熱中症予防運動指針」、

日本生気象学会では「日常生活に関する指針」を公表しています。


(「熱中症予防サイト」https://www.wbgt.env.go.jp より)



運動に関する指針


暑さ指数(WBGT)


注意事項

31以上

運動は原則中止

特別の場合以外は運動を中止する。

特に子どもの場合には中止すべき。

28以上31未満

厳重警戒

(激しい運動は中止)

熱中症の危険性が高いので、激しい運動や持久走など体温が上昇しやすい運動は避ける。

10~20分おきに休憩をとり水分・塩分の補給を行う。

暑さに弱い人※は運動を軽減または中止。

25以上28未満

警戒

(積極的に休憩)

熱中症の危険が増すので、積極的に休憩をとり適宜、水分・塩分を補給する。

激しい運動では、30分おきくらいに休憩をとる。

21以上25未満

注意

(積極的に水分補給)

熱中症による死亡事故が発生する可能性がある。

熱中症の兆候に注意するとともに、運動の合間に積極的に水分・塩分を補給する。


((公財)日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(2019)より)



WBGTの目安


気温、湿度と、WBGTとの関係は以下の通りです。



湿度50%

70%

90%

気温29℃

WBGT25

28

31

32℃

28

31

34

36℃

31

34

38

(参考資料:日本生気象学会2008.4)



熱中症予防のガイドライン


片平が推奨する運動時のガイドライン


厚生労働省や環境省、日本スポーツ協会などから、

熱中症予防のためのガイドラインが発表されています。


以下は、それらのガイドラインを踏まえて、

片平が個人的に推奨する

「運動時の熱中症を予防するためのガイドライン」です。


  1. 学校(教室、体育館、グラウンド)、屋外のスポーツ場にはWBGTが分かる温度計などを設置する。

  2. WBGT31以上の場合は、室内外を問わず、いかなる理由があっても運動は中止する。

  3. WBGT28以上の場合は、20分おきに、涼しい場所で休憩し、体の冷却、水分補給(後述)をする。

  4. 氷水で冷やしたタオルを用意しておき、好きな時に自由に体(汗)を拭けるようにしておく(拭く時は濡れタオルを固く絞って使うこと)。

  5. 可能であれば、保冷剤やアイスバッグ(大きなバケツに氷水を浸したもの)等を用意しておき、好きな時に自由に体を冷やせるようにしておく。

  6. 気温25℃以下でも熱中症が起こるリスクを十分に認識して対処する。

  7. スポーツ活動中はバディを組むなどし、友達同士(チームメイト)で互いの顔色や体調を20分おきに観察して監督やコーチに報告する体制を作る(重症に至る熱中症は本人では絶対に気づきません)。

  8. 運動開始前に体重を測り、活動中も20分おきに体重を測る。体重が2%以上減少しないように適時水分補給(後述)をする。

  9. (特に一般の方)4月ころから週に2日以上、汗ばむ程度の強度の有酸素性運動を行い、運動により汗をかく習慣を続ける。(それにより汗腺の働きがよくなり、暑い時に発汗により体熱管理がしやすくなります。)

  10. 1日3度の食事を抜かない。

  11. 正しい方法で水分補給をする(後述)。

  12. 体調が良い時こそほど、十分に気をつける(体調が良い時こそ無理をします。私がそうでした。)。



熱中症予防のための水分補給


発汗について


汗をかくと、汗が蒸発するときに

皮膚表面から気化熱が奪われて体温が下がります。

100gの汗をかくと、

それがすべて皮膚から蒸発したとして

体重70kgの人では体温を約1℃下げることができます。


汗の成分の99%以上は水ですが、

電解質や有機物も含まれています。


汗腺では、血液や間質液を原料として汗の原液が作られます。


汗の量が少ない場合、

汗原液中の塩分は皮膚表面に分泌されるまでに再吸収されますが、

汗が多くなると再吸収されない塩分が増え、

汗の塩分濃度が上昇します。

汗を多くかいた時に

塩分を含んだ飲料が勧められるのはこのためです。



スポーツ活動中の汗の量


全国の高校野球の夏期練習時に、

体重に対する発汗量と脱水量を調べた調査によると、

WBGTが31以上になる地域では

発汗率が6~7%

脱水率が2%に達していたそうです。



運動時の水分補給の仕方


運動中は発汗量に見合った水分量を摂取する必要があります。

ただし、水を摂りすぎることによる弊害(低ナトリウム血症)もあります。

体重や体質に合わせた、

適量を摂取することが大切です。


  1. 5~15℃に冷やした飲料を摂取する。

  2. 0.1~0.2%の食塩と糖質を含む飲料を摂取する(食塩相当量が0.1~0.2g(100ml中)であれば、0.1~0.2%の食塩水に相当します)。

  3. 体重の減少率が2%を超えないように注意する。

  4. 水分補給タイムを設けることと併せて、自由に水分補給できる体制を作る。



まとめ


ここまで記事を読んでくださった方は、

熱中症の怖さも、

予防方法も、

ご理解いただけたかと思います。


2010年ころより

熱中症患者が急増したこともあり、

近年では「熱中症に気を付けよう」という

意識は全国的に高まってきていると感じます。


ですが、いまだに

学校部活動や、スポーツ施設では、

WBGT31以上の環境下でも平然として

スポーツ活動が行われています。


各種スポーツ大会も中止されないのが実情です。


私は声を大にして言いたい。


「熱射病は死に至る病気です。」

「熱射病により亡くなる人を、一人も出したくない!」


その認識と覚悟を、

学校、スポーツ施設・教室、大会の

運営者と指導者にもってほしい。


現状を変えるためには、

スポーツをする個人だけでなく、

行政や各種スポーツ競技団体のトップが

変わる必要があります。


そういった方々が、

このブログ記事を読んでくれることを

願います。



7月20日

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